一年ぶりにエマニュエル・ルジェを訪問しました。 2019年の樽出しテイスティング。
訪問客のグラスにワインを注ぎ終えるたび、ルジェさんはバイオリン弾きのように斜めにピペット(ワインを樽から引き出す大きなスポイト)を構え、沈黙を保ちながら空のピペットの残り香を確認する。 その仕草がいかにも職人らしく、とても素敵に見える。
「そうやって何を確認しているのですか?」 と聞くと、 「エシェゾーには常にユリ lis やボタン pivoine 、そしてスパイシーな花の香りがに残り、クロ・パラントゥーにはブラッドオレンジ orange sanguine の香りが残るんです。」 と答えてくれた。
ルジェさんのこの二つの上級キュヴェを比較試飲する機会は蔵元の訪問以外ではまず持ちえないので、とても分かりやすく、説明するのに是非覚えておきたい貴重なコメントだと思いました。特に赤ワインから柑橘系の香りがするとき、大抵の人はそれを言う事を遠慮してしまう。ブラッドオレンジは、赤い果肉のオレンジ。ソムリエさんにとってもきっと良い情報になると思います!
昔からこのドメーヌのワインを飲み続けているその日の訪問客のソムリエさんは、
「あなたの全てのワインに、いつも僕は野ばらの香を感じます。」
グラスから溢れんばかりの薔薇。心地よい繊細なノバラ églantine。それがどのキュヴェにも感じられることがルジェさんのワインの全体的なイメージ。
ちなみに貴方にとっての 「お気に入りは?」 という質問に対しては、 「繊細さが力強さを上回って制覇しているプルミエクリュのボーモンは、その力強さゆえに難しいエシェゾーやクロ・パラントゥのように時と機会を選ぶことがなく、いつでも飲み手を迎えいれてくれる優しいワインなので好きです。」 とのこと。
個人的な記憶を辿れば、10年前の訪問からルジェさんのこの意見は変わっていない。ワインの個性は貫かれているのだと改めて思いました。
「流行がどうであろうとも、自分が好きなワインを造ること。それが一番大切だと思っています。」
時期継ぎ手の二人の息子、二コラとギヨームも同じ意思を持って父の背中を追いかけている。
(2020年2月18日訪問)
著者 裕子ショケ
ブルゴーニュ・レザンドール
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