マルク・コランの次男、ジョセフ。
モンラッシェ、シュヴァリエ・モンラッシェ、バタール・モンラッシェといった錚々たるグランクリュでも有名な、サントーバンの老舗ドメーヌ・マルク・コラン。
マルクの4人の子供たち(ピエール=イヴ、ジョセフ、キャロリーヌ、ダミアン)は一緒にドメーヌを盛り立ててきましたが、長男ピエール=イヴ、次男のジョセフは独立し、それぞれ独自のドメーヌを創立し、自分の思うワインを造っています。
ジョセフ・コランの初リリース
マルク・コラン、ピエール=イヴ・コラン=モレイ、ジョセフ・コランともに、かけられる最大限の時間を「栽培と造り」に投資しているため、訪問はなかなか叶いません。
先日、二年越しのお客様のためにやっと良い返事を得ることができ、ジョセフ・コランに訪問する夢が実現しました。
2016年に1ヘクタールの畑から、自分の名前でワインをリリース。
その年は重度の春の遅霜に見舞われたこともあり、1ヘクタールからできた生産量はなんと1200本のみ。日本にも僅かに輸出されてはいるものの、手に入れることができた愛好家は極少数。
2017年からドメーヌは本格的にスタート。6ヘクタールの畑に広がり、「ドメーヌ・ジョセフ・コラン」は順調にファンを増やしている。
公式サイトもなく、情報が著しく少ないので、実際に訪問して得たこの日の情報はとても貴重でした。
お忙しい中お時間を割いていただいたからこそ、より多くの愛好家やプロの方と分かち合いたいと思い、この日私たちにお話しくださったことをお伝えします。
「樽から直接引き出したときのワインが一番美味しい。伸び伸びとしたその自然の味わいを、そのまま瓶へ注ぎたい。」
ジョセフの6ヘクタールの畑はサントーバンとシャサーニュ・モンラッシェ一帯に細かく散在し、全部で55区画。そこから19のキュヴェを造っています。
この日、試飲したのはその中の10キュヴェ。まずはこんなにも沢山の種類のワインを造っていることに驚きました。
一番目に試飲したブルゴーニュ・ラ・コンブは、まるで「果汁」のような印象。子供の素顔が大人になってもそのまま素直に表れているかのような「力の入らない」瑞々しい純真な味わい。完成度の高いワインは背筋を正したくなるような威厳があるけれど、このワインは身体にすっと馴染んでいくような伸びやかな優しさがあります。
ジョセフは2004年にマルク・コランで働き始めてからずっと、自分の目指す方向へとTRYを積み重ねてきたと言う。
「亜硫酸は、最初にブドウを絞るときから瓶詰直前まで一切加えません。」
醸造をしていて一番恐いのは何か。
それは、ワインが酸化すること。唯一酸化から守る手段として生産者たちは亜硫酸を添加する。
でも、例えば50年代のとても古いワインを開けたとき、ワインは酸化していないのです。瓶詰め時に添加されたはずの亜硫酸はもうとっくにゼロになっているというのに。
つまり、「ワインそのものに、『酸化から守る成分』が含まれている」ということなのです。
その力を信じて、私は亜硫酸を使わない。
本来、樽から引き出した時のワインが最ものびのびとしていて、自然の味わいが豊かに広がっている。それをそのまま私は瓶まで運びたいのです。
亜硫酸を入れる度に、せっかく開いていたワインの香りや味わいが閉じる。そういった亜硫酸添加の段階をすべて切り捨てたやり方に辿りつくために、私はマルク・コランで働き始めた2004年からコツコツとトライを重ねてきました。
「亜硫酸を添加しないワインは、従来のワインのように熟成するのですか?」
という質問には、
「飲み頃」というのは、時とともに亜硫酸が消滅し、ワインが開いてきたときのこと。亜硫酸は保護すると同時にワインを閉ざしているのです。
亜硫酸を添加しなければワインは最初から飲みやすく、亜硫酸が少なければ必然的に飲み頃は早く来ます。そして、亜硫酸がなくなってからのワインと私のワインでは、辿っていく熟成の曲線はほぼ同じ、若しくはもっと長いくらいだと思っています。
一般のドメーヌの瓶詰め時の亜硫酸添加量が30~30mgのところ、ジョセフは16~20mgにとどめている。
瓶詰めは、樽から澱引きしてタンクに移し、わざわざグルニエ(屋根裏)にワインを運んで上から下へ流す方法。
さらに、バタール・モンラッシェとシュバリエ・モンラッシェに関しては樽に直接蛇口をつけて瓶詰めする。つまり、瓶詰めされたワインは、樽内から瓶詰めまで一度も空気に接していないワイン。グラスに注がれるときに初めて空気に触れ、外界を見るワインなのです。
収穫のタイミングはピンポイントまで極めます。
《ブドウの成熟度とミネラルの両方のバランスが一致したとき》に最高のワインが出来る。
6ヘクタールのドメーヌは、1カ月くらいかけて収穫されます。つまり他の生産者より早く始め、遅く終えることになる…。
「求めているのは、ブドウの成熟度とミネラルのバランス。その「相反する要素」を両方を取るが至難の業。」
そのために収穫日を正確に見極め、その日に実行することが最重要。
同じキュヴェでも、例えばCompendiumなら6区画持っていて、10日間かけて収穫している。ドメーヌ全体で言えば収穫には1カ月かけています。1日収穫をして、一週間空け、また収穫を始めるということもあります。そのため、他のドメーヌで収穫をしている収穫者たちを、希望日に融通してくれる会社と契約し、自分が決めた日にピンポイントで来てもらっています。
アルコール発酵は7カ月~1年間は続く。
セラーの中でも場所によってワインの発酵進度は異なります。
私のドメーヌでは、アルコール発酵は7カ月から1年間続きます。過去の例で、遅いキュヴェではアルコール発酵が13カ月続いたこともある。その間一切分析にはかけず、1週間に2~3回は蓋を開けて自分の耳で音を聞き、鼻で匂いを嗅ぐのです。
あるとき、発酵が一向に始まらない樽の上に自分が乗って、一時間くらい寄り添ったことがあります。不思議なことにその樽のワインの発酵は、その直後に始まったのです。触れていた自分の体温やエネルギーが伝わり、ワインが反応したように思えました。
月カレンダーと潮の満ち引きの両方を意識したビオディナミ。
暑さや乾燥によく効くのはタイムとラベンダーのエッセンスオイル。用途に応じてエッセンスオイルや煎じ薬(tisane)はよく用いるとのこと。
お子様は2人。長男18歳は地質学者の勉強をしていて、長女17歳は医学を勉強しているそうです。今のところドメーヌを継ぐつもりはないそうですが、もしそうなれば地質の勉強をしたうえでの彼なりの新たな見解が生まれるかもしれない、とジョセフ。
澱引きには月が降下してくるタイミング、果実の日、根の日(テロワールの香が出てくる)に興味を持っています。同時に、「太陽と月が液体を引っ張らないとき。」そのとき、香りまでが引き上げられてしまうからです。そのため、潮カレンダー(潮高から海面の高さを計上したもの coefficient des marées がベースになっているカレンダーのことだと思います。)も携帯電話に入れて参考にしています。実際にそれを見せてくださり、青の日は液体が天体に引かれていないので作業ができますが、赤の日はできませんと言う。
月カレンダー、潮カレンダーの両方の視点から割り出される「理想的な作業の日」はそうは無い。一か月に2~3日に限られてしまうのだそうです。だからメディアには追いかけられたくない。
「すべて自分の手でやる。小さな生産者、職人であり続けたいのです。もともと自分の好きな、自分で全部飲みたいと思うようなワイン造りをしようと思って『ジョセフ・コラン』というドメーヌを設立しました。そんなワインを「好きだ」と共感してくれる愛好家がいてくれることは、私にとってとても嬉しいことです。」
日本のインポーターは一社。ボーヌのVINALISTで働く奥様のヴィルジニーさんはLa Vinéeさんを深く信頼され、その日も日本出荷直前のパレットが店の倉庫に並んでいました。
ヴィルジニーの店 VINALIST (1, Route de Seurre, 21200 Beaune) では、ジョセフ・コランのワインをすべて取り扱っています。
ジョセフ・コランのワイン
赤ワイン
CHASSAGNE-MONTRACHET Vieilles Vignes
白ワイン
ACブルゴーニュ/村名
BOURGOGNE ALIGOTE Les Jardins de la Cote
BOURGOGNE La Combe
SAINT-AUBIN "Compendium"
CHASSAGNE-MONTRACHET
PULIGNY-MONTRACHET Le Trézin
プルミエクリュ
SAINT-AUBIN 1er Cru Clos du Meix
SAINT-AUBIN 1er Cru Sur le Sentier du Clou
SAINT-AUBIN 1er Cru Les Frionnes
SAINT-AUBIN 1er Cru Sous Roche Dumay
SAINT-AUBIN 1er Cru Les Combes
SAINT-AUBIN 1er Cru La Chateniere
SAINT-AUBIN 1er Cru En Remilly
CHASSAGNE-MONTRACHET 1er Cru Les Chenevottes
CHASSAGNE-MONTRACHET 1er Cru Vide Bourse
CHASSAGNE-MONTRACHET 1er Cru En Cailleret
PULIGNY-MONTRACHET 1er Cru La Garenne
グランクリュ
BATARD MONTRACHET Grand Cru
CHEVALIER MONTRACHET Grand Cru
(2020年2月6日訪問)
著者 裕子ショケ
ブルゴーニュ・レザンドール
メディア化されていないため、情報収集が困難なジョセフ・コラン。
造りにいつでも思いの丈を実現したい、そのためには自分自身がそれに対応できる立場でなければならないため、訪問は中々受けられません。
数少ない機会に訪問を受け入れた際には、迸る思いを語ってくれ、その内容は驚くことばかり。一回の受入れがドメーヌにとっても有意義なものとなるように、その言葉をできるだけ再現してお伝えしています。
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