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  • Yuko Bourgogne Raisindor

メゾン・ル・デュモン Lou Dumont @Gevrey-Chambertin

更新日:2020年2月13日

『プロフェッショナル仕事の流儀』で一躍話題になったル・デュモン 仲田 晃司さん。

日本人男性が歩む、ブルゴーニュでの「自分らしい」ワイン造り。


2018年1月8日にNHKが放映した、ル・デュモン Lou Dumont 仲田 晃司(なかだ こうじ)さんのドキュメンタリー『プロフェッショナル仕事の流儀「いつだって、人生は楽しい」』は、ワイン愛好家の間でひとしきり話題になっていた。一時は私も愛好家やプロたちのために無理を言って多忙な仲田さんに訪問のお願いをして、仲田さんを熱心に応援する方々の声を伝え 、それに真摯に応える仲田さんの誠実なお人柄に触れることができた。

23歳で渡仏して、撮影当時ちょうど人生の半分をブルゴーニュで生きてきた仲田さんが、何があろうとも憧れのブルゴーニュで「自分らしい」ワイン造りをするために、今日も努力を重ね、取り組みつづけている。その苦労と喜びが番組中にとても正直に表れていて、現地の実情や仲田さんご自身をよく知っている私にも素直に共感できる番組だった。

テレビで放映されたちょうど二年後の先日、また仲田さんを訪れる機会を得た。




ル・デュモンが醸造所を構える『ジュヴレ・シャンベルタン村』


ワイナリー『ル・デュモン Lou Dumont』は、ジュヴレ・シャンベルタン村にある。

ボーヌから北へ向かえば、国道沿いに「ジュヴレ・シャンベルタン」の看板が見えてくる。そこから丘陵の中腹に視線をうつせば、9つの錚々たるシャンベルタンのグランクリュが一つ、また一つと、隣接して車窓を走り抜ける。

ラヴォー渓谷が斜面を一旦区切り、早朝の朝日を浴びて温まった霧が、すぅっと谷間沿いにのぼっていく風景に出会うことがある。

そこに目的地の村が見えてくる。

13世紀の教会とシャトーが象徴的に村の真ん中に建ち、傾斜と起伏の激しい向こう側の丘のプルミエクリュ畑を背負っている。

大きなラヴォー渓谷がブドウ栽培に合った良質の土砂を吐き出しているので、ジュヴレ・シャンベルタン村では国道の下側の平地にまで村名アペラシオンの畑が広がっている。

ジュヴレ・シャンベルタンはつくづく恵まれた産地だ。

作付け面積は広く、ブルゴーニュ全体でたった33のグランクリュの9つがここに集結している。そしてその中に堂々と、ブルゴーニュワインの王者、『シャンベルタン』があるのだ。







少しオレンジがかったアイボリー色の石で造られた教会とシャトーの周りに、デュガ、ルソー、セラファン、マニアン、ダモワ、ルクレール、シャルロパンといった、コートでも取り分け個性の強いブルギニヨン(ブルゴーニュ土着の男たち)たちが軒並みに世界に向かって活躍している。本来彼らは「家族のワインを継承し、自分の布石を積み上げたワイン造り」をしているだけだ。それでも情報化が進んだ今、美味しいワインはすぐに開拓され、世界の果てまで運ばれる。

当時、20代半ばの仲田さんが、この村に溶け込むのは相当難しかっただろうことは容易に想像できる。

ワイナリーを立ち上げたばかりで、経営のためにとにかく自社ワインを売りさばく必要があった最初の頃は、 「売れるワインとは何か」を追求せざるを得なかったと仲田さんは言っている。

苦しい模索の中で、敬愛する醸造家、アンリ・ジャイエ氏から得たヒントは、

「流行にとらわれていないか?好かれようとしていないか?・・・本当に自分が美味しいと思うワインを造ることだ。」

つまり、自分で考えて、自分のワインを追求しろ、という助言だった。





典型的なヴィニュロンの手。硬く、ワインがしみ込んでいる。2012年撮影。
エマニュエル・ルジェ氏の手

そして今、アンリ・ジャイエ氏の甥、エマニュエル・ルジェ氏は言っている。


彼自身もまた引く手数多なスターヴィニュロン。畑もワインも自分の手で、全て世話している。畑でよく見かける生産者としてまず頭に思い浮かぶヴィニュロンの一人だ。

「セラーの中にいるのが最も心地がいい。」

と嬉しそうに自供する彼が、仲田さんと気が合うのはよく分かる気がする。 『プロフェッショナル仕事の流儀』で映ったインタヴューの場面では、

「彼(Koji)の性格が純粋にワインに表現されている。

Un vin très bien élevé avec tous les soins nécessaires. ‐ 必要な手をかけて、よく育てられているワインだ。」

仲田晃司さん 2020年1月

何かを怠ればずっと後悔する。必要だと思ったら、時 間と手間を惜しまずに手をかける。

畑ではもちろんのこと、そもそも一樽一樽、ぬか床をかき混ぜるかのように手で丁寧に果帽を押し込めるピジャージュの仕方は、私は他に耳にしたことがない。いかにも日本人らしく、丁寧にデリケートに様子を見ながら、感じながら、約7日間一日一回それを繰り返していく。タンクの場合は自分の足でやる。少ない量ならば温度は上がりにくい。仕込み中の温度が27度以下におさまることで、例えばイチゴの香りなら「ジャム」ではなく、イチゴそのもののピュアな香りが手に入れられる…。


仲田さんのが歩む道、自分らしいワイン造り。


仲田さんは多分気が付いていないのかもしれない。

私たちに自分のワインを説明するとき、まるで自分の子供の頭をなでるかのように、家族的な温かい表情で傍らにある樽を撫でるのだ。

生産者の手を離れていない、まだ造りの段階のワインの熟成のことをフランス語でélever と表現する。élever とは「育てる、養育する」ことなのだ。

苗を植え、剪定をし、一本一本の樹をできるだけ長生きさせようと様子を見ながら丹念に世話をし、負担にならない程度の適宜な量のブドウを実らせ、最高のタイミングで収穫する。

そのブドウから、やっとワインを造り始める。


アルコール発酵が終わって仕込みタンクから流れ出す新酒はまさに赤子だ。これからの将来のポテンシャルを秘めている。それを「育てる」のは造り手自身、まさに親と言っていい。

その実直でまっすぐな頑張りが時間とともに証明されて、今では村人たちに信頼され、温かく受け入れられるようになった。仲田さんのワインは、本人が言葉にしなくても「仲田さんらしさ」を語ってくれる。


仲田さんが駆け出しの頃、出来るだけ沢山の生産者を訪れ、その人がどうしてそういうワインを造っているのかを知ろうとしたと言う。

頑固なタンニンの強いワイン、軽やかさでエレガントなワイン、華やかなワイン、一見地味でも味わい深いワイン…。同じ畑からワインを造っていても、人それぞれでニュアンスが異なってくる。 答えを知る鍵となった質問は、

「あなたは何に一番お金をかけていますか?」

車なのか、家なのか、バカンスなのか…。その答え次第で人生の価値観が分かり、その人の造るワインの個人的趣向が理解できたという。

では、仲田さんにとっての価値観は何なのだろう。その場では言及しなかった。

家族思いで、温かく、滋味深い、飲む人に笑顔と安堵を与えるワイン。

私にとってはそれが、仲田さんのワインのイメージなのです。



ワイン造りをしていて一番楽しい瞬間


試飲はグランクリュのシャルム・シャンべルタン、コルトンと続き、お客様との話は盛り上がる。

そういえば以前、ある個人客がこんな質問をしていた。

「仲田さんがワイン造りをしていて一番楽しい瞬間は?」

仲田さんは照れ臭そうにこう答えた。

「いやぁ、ワイン造りというのは、スゴイ大変なことばかりです。唯一嬉しい瞬間は、飲んでくださる皆様が美味しいと思ってくださる瞬間。その頂点の一瞬の喜びのために、全ての辛い仕事を乗り越えています。」



初めて手に入れた区画、古樹を生かしたアリゴテ100


ところで、ドキュメンタリーの中で仲田さんがブルゴーニュで「初めて手に入れた畑」について取り上げられていたのを覚えていらっしゃいますか。

それは、コート・ド・ニュイのプレモー=プリッセイ村にある古い樹齢のアリゴテの畑。

アリゴテと言えば、価格的に安いワイン。量をつくらなければ採算がとれないので、普通なら抜き替えて若樹からたくさんの収穫を得たいところ。

でも、「古樹」こそ真の価値を発揮するブルゴーニュのワイン造りにおいて、仲田さんはこのブドウ樹を生かそうと思った。

そこで、2017年にマルコタージュという古来の植栽方法を導入し、古樹の枝の一部を土に埋め、そこからも直接栄養分を吸収できるようにして樹勢を助けた。嬉しいことに効果は顕著に出て17年のヴィンテージは豊作。収穫時にその場の判断で2回に分けて収穫し、普通の収穫日のものと遅摘みのものと別々に醸造・熟成。アリゴテらしいきりっとした酸とミネラルの強いもの(普通摘み)と、フルーティーでコクのあるもの(遅摘み)とをブレンドしたキュヴェを造っている。『神の雫』の作者、樹林さんは番組の中でこのワインをこう表現している。

「夜を待つ白い夜、白夜の独奏会。」


『アリゴテ100』のキュヴェ名は、3つの100に因んでいる。

100年以上の樹齢、100%有機栽培、100%新樽熟成。


今年の一月に私たちが訪問したときに試飲したのは、同じキュヴェの翌年のヴィンテージ、2018年。とても暑い年で、ブドウの成熟速度が早く、どの生産者も酸が落ちないうちにと猛スピードで短期間に収穫しきっていた。ル・デュモンでも同様、この年は2回に分けることはせず、一つの樽に静かに寝かされている。そう、たった一つの樽…。ブルゴーニュ全体では豊作だった2018年だが、仲田さんの畑があるプレモー=プリッセイ村には不運にも雹が降り、50%減になってしまったのだそうだ…。

「いつだって、人生は楽しい。」 そう思って生きていこうと心に決めている仲田さんは、いつも温かい笑顔を忘れない。 ここに来ると、なぜかホッとする。絶対に変わらないと思わせる信念を感じる。



2020年7月7日、メゾン・ル・デュモン創業20周年!

仲田さんが Maison Lou Dumontをジュヴレ・シャンベルタン村に創業したのは、2000年7月7日。

「七夕の日」というのは、偶然の巡り合わせだったのだろうか。奥様のジェファさんを右腕と信頼し感謝する仲田さんと、七夕にどことなく縁を感じます。

そして今年2020年7月7日、創業20周年!

「何か特別なイベントを企画されるのですか?」

という質問に、

「いやぁ、特に何も考えていません。でも、従業員には感謝したいですね。10周年記念には大型テレビ、15周年記念にはワインセラーをプレゼントしました。」

と笑う。

ル・デュモンを支えてくれる従業員は、仲田さんにとって家族同然なのだろう。



新たにオープンしたゲストハウス。部屋貸しはお一人様一泊からOK!





2019年、仲田さんと奥様ジェファさんは醸造所の隣りに「ゲストハウス」をオープン! 故郷の岡山の名所、倉敷を思わせる木目調の自然な外観で、愛好家やインポーター、プロの方々のグループをお待ちしているそうです。 ピノ・ノワール、シャルドネ、アリゴテといったブドウの名前のついたお部屋があり、内装はスタイリッシュで美しく、一階には試飲会にも向くような宿泊者共用のオープンキッチンがあります。 朝食は届けてくれますが、夕食は付きませんので、自炊または村のレストランをご利用ください。 徒歩5分ほどの La Rôtisserie du Chambertin (Le Bistrot Lucien)は、地元の生産者もよく見かける人気のレストランの一つです。他にも仲田さんお勧めの地元の住民が愛用するレストランがいくつかあるようです。


ゲストハウスのご予約は、仲田さんのFacebookなどで直接コンタクトをとってください。https://www.facebook.com/Nakadakojiloudumont







著者 裕子ショケ

ブルゴーニュ・レザンドール

Yuko Choquet

Bourgogne Raisin d'or









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